大阪高等裁判所 昭和53年(ラ)39号 決定 1978年5月08日
抗告人
合同インキ株式会社
右代表者
森興一
外二二名
右抗告人ら代理人
中務嗣治郎
外三名
相手方
大阪府
右代表者知事
黒田了一
主文
本件抗告をいずれも棄却する。
抗告費用は抗告人らの負担とする。
理由
二1 <前略>
およそ環境権といわれているものは、たとえば、大気、水、日照、静穏、土壌、景観などの自然的環境や社会的施設を含む環境を享受し、かつこれを支配しうる権利であり、このような環境権における素材は不動産の利用権とは無関係に何人にも享受されうるものである。環境権は財産権よりも人格権に近く、支配権としての排他性をもつが、すべての地域住民は健康で快適な生活を維持してゆくため、環境が破壊され、またはそのおそれがあるときは、支配権であるこの環境権に基づいて差止を請求することができるとされている。しかしながら、抗告人らの主張する企業環境権なるものは、権利の内容が右のような環境権とは異なり、とくに人格権とはおよそ無関係のものであり、その保護の対象についても国民の健康で快適な生活の維持とは無関係な企業活動の自由であり、また権利の帰属主体も地域住民ではなくて、工場地域内で操業する企業者である。したがつて、抗告人らの主張する企業環境権は、名を「環境権」というも、公害に対する差止請求としてのいわゆる「環境権」とは異なり、権利自体としていまだ成熟しているとは認めがたいから、これが存立していることを前提として、本件のような差止を請求することができないものである。したがつて抗告人らの主張はそれ自体失当であつて採用できない。
2 なお、抗告人らは、本件予定地上に本件府営集合住宅が建設され、その使用が開始された場合、入居者から抗告人らの企業活動によつて発生する騒音、振動等により環境を害されるとして、企業活動の差止め等を要求されるおそれがあると主張するけれども、抗告人において現在行なつている企業活動に変化がなく、かつ所定の環境基準を超えない限り、右企業活動が行なわれていることを認識しながら今後本件集合住宅に入居する居住者としては、抗告人らの企業活動の差止めを求め得ないというべく、この場合居住者の不服等に対しては、住宅建設者たる相手方において応待し解決を図るべきものであるから、抗告人らの右主張も採用しえない。
3 そうすると、抗告人らの本件仮処分申請をいずれも却下した原決定は相当であつて、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。
(下出義明 村上博巳 吉川義春)